— 冬の影をほどき、光へ向かうための小さな通路 —
冬の終わり、台所に立つと、ねぎの香りがいつもより甘く感じられる瞬間がある。寒さの中でゆっくり育った冬のねぎは、白い繊維の奥に水分をたっぷり含み、刻んだ途端にその季節の気配をまっすぐに放つ。冬明けは、身体がまだ冬の重さを抱えながらも、光の変化に引かれるように少しずつ外側へ開いていく時期。ねぎの甘味と塩の締まり、柑橘の明るさは、その揺らぎに寄り添う小さな通路になる。
ねぎを細かく刻む所作は、冬の静けさをほどくような動きだ。包丁がまな板に触れる音が、季節の境目を静かに刻む。そこに柑橘の果汁をひとしずく落とすと、冬の奥に差し込む光のような明るさが生まれ、味の輪郭がやわらかく整う。Preserves & Basics の料理は主役ではなく“支える存在”だけれど、このたれは素材の甘味や香りをそっと引き出し、冬明けの食卓を軽やかに整えてくれる。
使い方はとても自由だ。蒸した豆腐や厚揚げにひとさじ添えると、淡い旨味が光をまとったように変わる。雑穀のおかゆや玄米ごはんに落とせば、呼吸が深まるようなやさしい一皿になる。春野菜の蒸しものに合わせると、苦味や甘味がほどけて、季節の入口がふっと開く。焼いた長芋やれんこん、ブロッコリーなどの野菜にもよく合い、ただ少量を添えるだけで台所の空気が軽くなる。
保存食というより、季節の入口を知らせる小さな合図のような存在。冬明けの台所に、そっと置いておきたい一瓶。

