見えない月の呼吸

見えない月の呼吸

空がゆっくりと明るくなりはじめる頃、 東の地平線に淡い橙色が広がっていた。 その光はまだ弱く、 夜の冷たさをわずかに抱えたまま、 空の奥を静かに染めていく。

今日は新月期で、 月の姿はどこにも見えなかった。 けれど、見えないということが、 かえってその存在を強く感じさせていた。 姿を持たない影のように、 空気の奥で静かに呼吸している気配があった。

朝焼けの色は、 季節の境目をそっと知らせる。 冬の名残を含んだ淡い光が、 空の青と重なりながらゆっくりと広がっていく。 その光の手前に、 見えない月の気配が薄く漂っていた。

風はほとんどなく、 空気は夜の静けさをまだ抱えていた。 その静けさの中で、 新月の存在は影のように感じられた。 見えないものが、 見えるものよりも深く空を満たす瞬間がある。

光が強くなるにつれて、 空の色は少しずつ変わっていく。 けれど、見えない月の気配は、 光に溶けることなく、 空の奥に薄く残り続けていた。 それは、存在が姿を持たないときにだけ現れる 特別な静けさだった。

新月の朝焼けは、 始まりと終わりが重なる場所にある。 夜の影は姿を失い、 朝の光はまだ輪郭を持たない。 その曖昧な境目に、 見えない月の呼吸がそっと漂っていた。

見えないものが、 世界を深くしていくことがある。 新月の朝焼けは、 そのことを静かに教えてくれる。